はじめに
フリーランスの働き方は近年ますます多様化しており、従来の雇用形態とは異なる新しい働き方として注目されています。
しかしながら、フリーランスと発注企業との取引においては、情報の非対称性や交渉力の差から様々なトラブルが発生してきました。
このような背景から、フリーランスの適正な就業環境の確保と取引関係の適正化を図るための新しい法律、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称フリーランス保護新法)が制定されました。
フリーランス新法の概要

フリーランス保護新法は、2024年11月1日に施行される予定の新しい法律です。
この法律の主な目的は、フリーランスと発注事業者の取引関係を適正化し、フリーランスの就業環境を整備することにあります。
対象となるフリーランスの定義
この法律では、フリーランスを「従業員を使用しない個人事業主」と定義しています。
つまり、従業員を雇っていない自営業者や役員・従業員のいない法人の代表者がフリーランスとして保護の対象となります。
一方、発注企業側は「特定業務委託事業者」と呼ばれ、フリーランスに業務を委託する企業が対象となります。
発注企業側の義務
フリーランス保護新法は、発注企業側に様々な義務を課しています。
主な義務は以下の通りです。
- 書面等による取引条件の明示
- 報酬の支払期日の設定と期日内の支払い
- 7つの禁止行為の遵守(受領拒否、報酬減額、返品等)
- 募集情報の的確な表示
- 育児・介護等と業務の両立への配慮
- ハラスメント対策の体制整備
- 6か月以上の業務委託の中途解除時の理由開示と事前予告
これらの義務を遵守することで、フリーランスの適正な取引環境と就業環境が確保されることが期待されています。
新法制定の背景

フリーランス新法が制定された背景には、近年のフリーランスの増加とフリーランスを取り巻く課題がありました。
フリーランスの増加
近年、ICTの進展やライフスタイルの多様化などを背景にフリーランスとして働く人が増加しています。
フリーランスは柔軟な働き方が可能な一方で、発注企業との取引において弱い立場に置かれがちでした。
今後もフリーランスの増加が見込まれるため、適正な就業環境の整備が求められていました。
フリーランスを取り巻く課題
フリーランスと発注企業の取引においては、以下のようなトラブルが指摘されてきました。
- 報酬の支払い遅延や減額
- 成果物の一方的な受領拒否
- 不当な強制購入や手数料徴収
- 虚偽の募集情報による誤解
- ハラスメント被害
こうしたトラブルが発生する背景には、情報の非対称性や交渉力の差があると考えられています。
フリーランスの多くが特定の発注企業に大きく依存しており、発注企業の優越的地位が背景にあります。
新法の影響と対応

フリーランス保護新法の施行により、フリーランスの就業環境は大きく改善されると期待されています。
一方で、発注企業側には新たな義務が課されるため適切な対応が求められます。
フリーランスへの影響
新法の施行によって、フリーランスは以下のようなメリットが期待できます。
- 取引条件の明確化による透明性の向上
- 報酬の適正な支払いの確保
- 不当な扱いからの保護
- ハラスメント対策の環境整備
- 長期的な業務委託における権利保護
これにより、フリーランスは安心して業務に専念でき収入の安定化が図られるでしょう。
また、トラブル発生時にも泣き寝入りせずに済むようになります。
発注企業への影響と対応
一方、発注企業側には新たな義務が課されるため、適切な対応が必要となります。
特に中小企業にとっては、新法への対応が負担となる可能性があります。
発注企業は、以下の点に留意する必要があります。
- 新法の内容の理解と社内体制の整備
- 取引条件の明示方法の検討
- 報酬支払いプロセスの見直し
- 禁止行為の確認と未然防止策の実施
- ハラスメント対策の体制整備
- 長期的な業務委託の管理体制の構築
また、中小企業では専門家によるサポートを受けることも有効な対応策となるでしょう。
新法に向けた取り組み

フリーランス新法の施行に向けて、政府や関係団体による様々な取り組みが行われています。
ガイドラインの策定
政府は2022年12月に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定しました。
このガイドラインでは、新法の適用関係や問題となる行為の例などが示されています。
ガイドラインの内容を理解することで、フリーランスと発注企業の双方が適切に対応できるようになります。
相談体制の整備
また、フリーランスの皆さんが安心して新法について相談できるよう、「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。
この窓口では、専門家が無料で相談に応じています。
加えて、フリーランスの実態調査も行われており、新法の施行後の影響把握にも役立てられる予定です。
まとめ
フリーランス保護新法は、フリーランスの適正な就業環境の確保と取引関係の適正化を目指す重要な法律です。
この新法の施行により、フリーランスの権利が守られ、安心して業務に専念できる環境が整備されることが期待されています。
一方で、発注企業側にも新たな義務が課されるため、適切な対応が求められます。
中小企業にとっては負担になる可能性もあり、専門家によるサポートを受けることも有効な対策となるでしょう。
フリーランスと発注企業の双方が新法の内容を理解し、遵守することが重要です。
そうすることで、フリーランスの働き方が更に広がり、多様な働き方の実現につながることが期待されます。